この記事では労働審判手続を弁護士に依頼するときの弁護士費用の相場について、弁護士がざっくばらんに解説をしています。
弁護士費用は法律事務所によって異なる
弁護士報酬は平成16年4月から自由化され、各法律事務所が自由に価格を設定できるようになりました。
そのため、労働審判手続を弁護士に依頼するときの弁護士費用も、各法律事務所によって異なります。
もっとも、多くの法律事務所は弁護士報酬の自由化後も従来使用されてきた日弁連の報酬基準に準ずる報酬基準を設定していますので、日弁連の旧報酬基準が相場を調べる上でひとつの参考になります。
ざっくり1件30~100万円程度
労働審判手続の弁護士費用は、事件の内容によって変わりますが、乱暴にざっくり相場感をいってしまうと30万円~100万円程度です。
労働審判手続1件にかかる労力を考えると、弁護士としては最低30万円は事務所の維持のためにも必要なところですので、最低額としては総額で30万円が一つの目安になります。
また、請求額が高額な労災事件などは、労働審判ではあまり取扱われませんので、せいぜい500万円程度までの金銭請求事件であれば、弁護士費用は100万円程度までにまず収まります。
着手金、報酬金の傾向としては、労働者側の弁護士費用は最終的に金銭を得られる請求が多いので着手金を安く設定する傾向があります。逆に使用者側は着手金を格別安く設定する傾向はみられません。
2008年と若干古いデータですが、日弁連のアンケート調査では、労働事件の着手金のボリュームゾーンが20~30万円前後、報酬金のボリュームゾーンが30~50万円前後となっています。
弁護士費用の2つの方式
弁護士費用の決め方は大きく分けると、着手金・報酬金方式、タイムチャージ方式の2つに分類することができます。
着手金・報酬金方式
着手金・報酬金方式は、依頼時に着手金、依頼が成功したときに報酬金をそれぞれ支払う方式です。この方式の中には、費用が固定された定額方式、経済的利益に応じて一定の割合をかける方式、両者を組み合わせる方式があります。
経済的利益とは、請求する側からすると得られた金額、請求される側からすると請求額から減額できた金額を設定するのが一般的です。
労働審判手続の場合は、多くの法律事務所で着手金・報酬金方式が採用されています。
タイムチャージ方式
タイムチャージ方式は、実際に弁護士が稼働した時間に対して費用が決定される方式です。上限が設けられるのが一般的です。
例えば、タイムチャージ1時間あたり3万円の弁護士1人が、30時間稼働した場合は、90万円(3万円×30時間)が弁護士費用となります。
タイムチャージ方式は、大手の企業法務系法律事務所、専門性の高い法律事務所(ブティック事務所)などで採用されています。
実際に得られる経済的利益よりも高くなることもありえるので、タイムチャージ方式の場合は、上限の設定に注意する必要があります。
金銭の請求をする労働審判事件の弁護士費用の相場
退職金や未払残業代等の金銭を請求する場合の弁護士費用は、日弁連の旧報酬基準を採用する場合は次のとおりとなります。
事例:200万円の未払い賃金を請求する場合(請求された場合)で、全額回収できた場合(全額減額できた場合)。
着手金:200万円×8%=16万円
報酬金:200万円×16%=32万円
合計:48万円
また、労働審判手続の着手金については、定額制を採用している法律事務所も多くあり、概ね20~50万円程度で設定されていることが多いです。この場合の報酬金については、得られた経済的利益に10~20%程度をかけたものになることが多いでしょう。
金銭の請求をしない労働審判事件の弁護士費用の相場
解雇の無効を争う地位確認請求の場合の弁護士費用は、日弁連の旧報酬基準を採用する場合は次のとおりとなります。地位確認事件は経済的利益の算定ができないので、800万円が経済的利益の基準となります。労働審判手続では、この基準よりは安くなることが多いようです。
着手金:800万円×5%+9万円=49万円
報酬金:800万円×10%+18万円=98万円
合計:147万円
定額制を採用している場合は、地位確認事件では着手金・報酬金ともに20万円~50万円程度で設定されていることが多いです。
地位確認事件では、未払いの残業代や解雇期間中の賃金の請求が併せて行われることがありますが、その場合は、金銭を請求する場合の着手金・報酬金が追加されます。もっとも、地位確認事件で着手金が発生している場合は、金銭請求の着手金は別途生じないか、減額されることが多いようです。
完全成功報酬制
労働者側からの請求の事件については、完全成功報酬制を採用している法律事務所もあります。完全成功報酬制は、着手金がかからず、初期費用を気にせず依頼できるというメリットがあります。
もっとも、完全成功報酬制は、使用者側から金銭を得られないと弁護士としてはタダ働きになるので、相当程度勝ち目が高い事件でないと受任にいたらないことが多いでしょう。
また、報酬を得られないリスクを弁護士が負うため、日弁連の旧報酬基準よりは、支払い総額が高くなる傾向にあります。目安としては、経済的利益の30%程度が基準となるでしょう(回収額が200万円であれば弁護士費用は60万円)。高額の請求が見込める事件では、報酬額に注意する必要があります。
なお、完全成功報酬制は、使用者側ではまず採用されていません。
完全成功報酬制のポイント
- 着手金がかからないので、手持ち資金がなくても依頼しやすい
- 依頼できる事件は限定されている
- 弁護士費用の総額は高くなる傾向有り
日当、実費、事務手数料
着手金・報酬金のほかに、日当、実費、事務手数料等の名目の費用がかかることがあります。完全成功報酬制の法律事務所でも、これらの費用は基本的に負けた場合でもかかります。
日当は、弁護士が遠方に赴く際にかかる費用で半日、1日で3~10万円程度かかります。また、近場の裁判所を利用する場合でも審判期日の出廷ごとに日当がかかる場合もあります。結果的に高くつくことも多いので日当については事前に確認が必要です。
実費は、裁判所に支払う申立手数料、郵便切手代、交通費などです。これはほぼ必ずかかります。申立手数料と郵便切手代は金額が決まっているので、交通費が高くつくことがなければ、概ね数万円以内におさまります(申立手数料は請求額に比例して高くなります。)。記録の謄写や事件の調査に必要な費用がかかる場合もあります。
実費とはほかに事務手数料として数万円以内の費用を請求している法律事務所もあります。
通常訴訟に移行した場合の費用の確認も必要
労働審判に異議がある場合などは、労働審判から通常の民事訴訟に移行されます。この場合、追加費用がかかるかどうかも確認が必要です。
トラブル防止のために見積書と委任契約書でしっかり確認
弁護士費用のトラブルを防止するためには、見積書を作成してもらうことが重要です。また、弁護士は、労働審判事件を受任する際は、委任契約書を作成しなければならない決まりとなっていますので、委任契約書中の報酬の条項をしっかり確認してから契約をしましょう。
法テラスを利用すると相場より安くなる
収入と資産が一定基準以下の方は、法テラスを利用することも可能です。法テラスは、収入と資産が一定基準以下の方のために弁護士費用を立て替えてくれる公的な機関です。
法テラスを利用する場合は、法テラス独自の報酬基準が決まっており、その基準は一般的な弁護士費用より安く設定されています。
そのため、法テラスを利用すれば、通常の弁護士費用よりは安く、分割払いで依頼することが可能になります。
もっとも、法テラスを利用する場合は、法テラスと契約している弁護士にしか依頼できません。
法テラスのポイント
- 弁護士費用の立替払いをしてもらえる(分割での支払いは原則必要)
- 弁護士費用が安く設定されている
- 法律相談は1事案につき3回まで無料
- 全ての弁護士で利用できるわけではない