この記事では労働審判手続の流れについて弁護士が解説しています。
労働審判手続とは
労働審判手続は平成18年4月から始まった制度で、労働事件をできるだけ素早く解決するために作られた制度です。手続開始から年々利用が増加し、現在は年間約3500件前後の労働審判が申し立てられています。
手続きの特徴としては以下のものが挙げられます。
- 3回以内の裁判期日で審理を終え、結論が下される
- 申立から手続終了までの平均日数は約75日
- 職業裁判官1名、民間の審判員2名により構成される労働審判委員会で審理
- まずは話し合いの調停を試みる
- 手続は非公開
申立て
労働審判を申し立てるときは、管轄の地方裁判所に申立書を提出します。添付書類等は以下のとおりです。郵便切手や添付する写しの部数等は裁判所に確認する必要があります。
- 申立手数料(収入印紙)
- 予納郵便切手
- 申立書の写し
- 証拠説明書
- 証拠書類の写し
- 資格証明書(使用者が法人の場合のみ代表者が記載されている登記)
- 委任状(弁護士が代理する場合)
弁護士なしで労働審判の申立ては可能?
労働審判は、専門的な手続で、3回以内の期日で審理が終結する迅速性が求められる手続です。そのため、弁護士を付けない本人申立てのハードルは高く、裁判所の案内でも弁護士に相談することが推奨されています。また、労働審判を申し立てられた会社側としても、第1回期日までに充実した内容の答弁書を提出しなければならないので、弁護士を付けずに労働審判期日にのぞむのは難しいです。
呼出状の送付、答弁書の提出
申立書が受理されると、第1回の期日が指定され、呼出状と申立書・証拠書類の写し等が相手方のもとに郵送されます。
申立てから第1回期日までは40日以内
労働審判手続では、原則として申立てから40日以内に第1回期日が指定されます(労働審判規則13条)。
もっとも、申立書の不備があったりして、その補正をしていたりすると40日を超えることも珍しくありません。
答弁書の提出期限は第1回期日の1週間~10日前
相手方(使用者側)は、申立書に対する答弁書を提出することになりますが、答弁書には提出期限が定められます(労働審判規則14条)。
答弁書の写しは民間の労働審判員に第1回期日前に郵送されます。期限を過ぎて答弁書を提出すると、労働審判員が答弁書を第1回期日当日に初めて読むことになったり、印象が悪くなることがありますので、期限を遵守するのが重要です。
使用者に過酷な労働審判手続
労働審判手続は、第1回期日で主張及び争点の整理、証拠調べ、調停の試みまで行われます。要するに第1回期日でほぼ結論が決まります。そのため、呼出状の受領から答弁書提出期限までのわずかな期間に、使用者は完璧に近い答弁書と証拠書類を用意しなければなりません。労働審判手続は、十分に準備を行って好きなタイミングで申立てができる労働者側(申立人)に対し、使用者にとっては極めて過酷な制度といえます。
第1回期日~第3回期日
通常の労働訴訟では、代理人が就任していれば当事者の出席は不要ですが、労働審判手続では第1回期日から審尋、調停の試みが行われるので、当事者(使用者側は総務部長、社長等)、証人等の出席が必要になります。
労働審判法24条による事件の終了
事案が複雑事案であるなど、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないときは、労働審判委員会の判断で、労働審判事件が終了させられる場合があります(労働審判法24条1項)。この場合は、手続は通常の訴訟に移行されます。
第1回期日
労働審判手続の第1回期日では、当事者の主張及び争点の整理、証拠調べが行われます。労働審判手続では第1回期日が重要な期日で、時間も2時間程度予定されています。
証拠調べでは、労働審判委員会から当事者、関係者に審尋(質問)がなされます。
第1回期日でも調停が試みられることも多く、調停が成立すれば、第1回期日で労働審判は終了となります。
第2回~3回期日
第2回期日以降は、2~3週間後程度の間隔で行われ、調停が中心となります。時間も30分から1時間程度です。
第3回期日までに調停ができなければ、労働審判が下されます。
労働審判
当事者間で調停が成立しない場合は、労働審判委員会から労働審判が下されます。
労働審判は、一般的には口頭で告知されます。
2週間以内に異議申立てがなされなければ、労働審判は確定し、強制執行が可能になります。
異議申立て
労働審判委員会から下された労働審判に異議がある当事者は、審判書の送達又は労働審判の告知を受けた日から2週間以内に、異議申立てをすることができます。
異議申立てがあった場合は、労働審判手続は通常訴訟に移行されます。