テレワークが浸透してきた結果、会社外でもメールやチャットなどの非同期コミュニケーションツールを使うのが企業でも一般的になってきました。
メールやチャットは便利な反面、勤務時間外にメールやチャットが来ることにストレスに感じる従業員も増えているようです。
この記事では、会社からの勤務時間外のメールやチャットがどこまで許されるかについて弁護士が解説をしています。
非同期コミュニケーションの例
- 手紙
- メール
- チャット(Slack,Chatwork,Microsoft Teams等のチャット機能)
同期コミュニケーションの例
- 面談
- 電話
- ビデオ会議
勤務時間外のメールやチャットが指揮命令下にあるといえるかがポイント
テレワークが発達してきても、いまだほとんどの労働者は労働時間という単位で働いてきます。
そのため、まずは労基法の労働時間の概念について解説していきます。
労基法上の労働時間とは
労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に従って労務を提供する時間を指すとするのが判例・通説的見解です(指揮命令下説)。
勤務時間外に労基法上の労働時間に該当する時間がある場合は、使用者はその間の賃金を支払う義務があり、法定時間外労働になる場合は割増賃金の支払も必要になります。
勤務時間外にメールやチャットの返信を求めるのはNG
勤務時間外にメールやチャットの返信を求める場合は、当該時間は使用者の指揮命令下にあるといえるので、労働時間に該当します。
この場合は、残業になってしまうので残業代の支払が必要になります。
勤務時間外の閲覧や返信が不要ならOK
勤務時間の制限を受けていない役員等の経営陣が、常に勤務時間に合わせてメールやチャットを送らなければならないのは、メールやチャットの利点を損ねていますし、送信自体を忘れてしまう可能性があります。
勤務時間内に閲覧して返信をくれればよいということで、メールやチャットを送るのは労働者を拘束して指揮命令下においているわけではないで、かまいません。
勤務時間外のメール返信は自粛を命じておく
残業を命じていないのに、勤務時間外に労働者が業務を行っても本来残業とはいえず、使用者に賃金の支払義務はありません。
しかし、使用者が残業を黙認していた場合は、残業命令があったものとして扱われるおそれがあります。
そのため、勤務時間外に労働者がメールを返信することを使用者が黙認していると、その時間が残業と扱われるおそれがあります。
したがって、労働者の勤務時間外のメール返信についてはしないよう命じておくべきです。
勤務時間外のメールを労働時間と立証するのは難しい
勤務時間外のメールが使用者の指揮命令下で行われているものであれば、その時間は労働時間に該当します。
もっとも、理屈的には上記の通りなのですが、この労働時間を裁判で立証していこうと思うと困難をともないます。
会社に滞在していれば、仕事をしているのが普通と考えられるので、その滞在時間は労働時間という認定を受けやすいです。勤務時間後にメールのやり取りなどが会社内で行われていれば、勤務時間後からメールのやり取りがあったまでの時間は労働時間と認定されやすいでしょう。
他方で、自宅など会社外でメールの返信をしている場合はどの程度の時間をメール返信に費やしているかが不明だからです。
残業代請求の裁判で、労働者が自宅のパソコンのweb閲覧履歴やパソコンでのメールの送受信記録を労働時間の根拠として提出したものがありますが、この事案では裁判所はこれらの資料からの労働時間の認定を否定しています。
東京地判平成27年11月17日
「原告の自宅パソコンのwebブラウザ閲覧履歴にあるもの全てが原告が被告の業務に関係して閲覧したものとはにわかには認められないし、この点を措くとしても、原告が主張する始業時刻から原告の自宅のパソコンの記録により特定される時刻までの間、原告が(原告主張の休憩時間45分を除いたとしても)連続して就労していたとは認められない。原告は、別紙労働時間集計表2(原告)において、被告で使用していたパソコンでのメールの送受信記録(乙57)も労働時間の根拠として援用するが、受信時間が就労時間の根拠となるとはにわかに解されず、また、上記のとおり、原告の自宅のパソコンのweb閲覧履歴及びイベントログの記録が就労時間の算定根拠として採用できない以上、これらも根拠として算定されている別紙労働時間集計表2(原告)の平均就労時間が採用できないことに変わりはない。」
まとめ
この記事のポイントのまとめです。
- 使用者が勤務時間外のメールやチャットの返信を求めるのはNG
- 労働者が勤務時間外に閲覧したり返信することが不要ならメールやチャットを送信してもOK
- 労働者に勤務時間外にメールやチャットを返信をしないよう命じておく