この記事では試用期間中の本採用の拒否の適法性について弁護士が解説をしています。
試用期間の法的性質
試用期間は、労働者が正社員等の期間の定めのないとして本採用される前に、能力や適応性を評価・判断するために設けられている制度です。
試用期間が設けられる場合でも、特別の事情がない限り全員が本採用され、その際に別段の契約書を取り交わすことはされません。
このような意味での試用期間が設けられている場合は、当初から期間の定めのない労働契約が成立していると解され、それに解約権が留保されているにすぎないと解されています。
試用期間と有期契約の区別
有期契約の場合は、試用期間と異なり、契約期間終了後当然に労働契約は終了します。
雇用期間が設けられている場合であっても、それを設けた趣旨・目的が労働者の適正を評価・判断するためのものであるときは、試用期間であると判断される可能性があります(神戸弘陵学園事件、最判平成2年6月5日、労判564号7頁)。
試用期間であると判断される場合には、使用者は、期間満了による労働契約の終了を主張できないことになります。
神戸弘陵学園事件(最判平成2年6月5日、労判564号7頁)
「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適正を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。」
本採用拒否の適法性
試用期間中の本採用の拒否、すなわち解約留保権の行使(解雇)は本採用後の通常の解雇よりは比較的広い範囲で認められますが、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が認められないと適法にはできません。
試用期間はその労働者の適正を判断する趣旨・目的で設けられるなので、客観的合理的理由が認められるには、採用時には使用者が知ることができなかったまたは知ることが期待できないような事情が認められる必要があります。
以下、本採用拒否の有効性について判断された裁判例をご紹介します。
本採用拒否(解雇)を適法とした事例
空調服事件(東京高判平成28年8月3日、労判1145号21頁)
労務管理や経理業務を含む総務関係の業務を担当させる目的で雇用した労働者について、当該労働者が全社員が参加する会議で会社の会計処理が間違っている旨発言したことについて、「組織的配慮を欠いた自己アピール以外の何物でもない。」として、解雇を有効とした(1審は無効と認定、上告棄却)。
キングスオート事件(東京地判平成27年10月9日)
管理部の責任者として雇用された労働者について、基本的な業務遂行能力が乏しく、管理職としての適格性に疑問を抱かせる態度もあったこと、他の従業員からの苦情等が出され会社の業務に支障が生じるなどしていたとして、解雇を有効とした。
本採用拒否(解雇)を違法とした事例
フェニメディック事件(東京地判平成25年7月23日、労判1080号5頁)
動物病院の獣医師として雇用された労働者について、診療の細かいミスが認められるものの「獣医師として能力不足であって改善の余地がないとまでいうことはできない」とされ、院内勉強会等への出席状況について「院内勉強会への出席について明確な業務指示を出したとは認めがたい本件において、院内勉強会への出席状況を勤務態度の評価に反映することには抑制的であるべきである」として、解雇を無効とした。
本採用拒否の争われ方
本採用の拒否が訴訟等で争われる際は、解雇された従業員が解雇が無効であるとして労働契約上の地位確認を請求するという形で争われます。
また、解雇が不法行為にあたるなどとして損害賠償請求、未払い残業代などの未払賃金が併せて請求されることもあります。