ハラスメント

ハラスメント加害従業員に対する懲戒処分の注意点

ハラスメント、懲戒処分、注意点

セクハラ、パワハラ等のハラスメントの加害者に対しては、会社から懲戒処分を下すことがあります。この記事では、ハラスメント加害従業員に対する懲戒処分の注意点について弁護士が解説しています。

懲戒処分には就業規則の定めと周知が必要

懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒事由と懲戒の種類について定めがある必要があります(フジ興産事件、最判平成15年10月10日、労判861号5頁)。

就業規則がなかったり、周知がされていない場合はそもそも懲戒処分ができないので注意が必要です。

ハラスメントの事実認定と該当性

懲戒処分を行うには、まず被害者が主張するような行為が行われていることが認められることと、当該行為が懲戒事由となりうるハラスメントに該当することが必要になります。

ハラスメントの事実認定

ハラスメント、特にセクハラは密室で行われることが多く、当事者の言い分が食い違う場合も多々あります。

ハラスメントを直接立証できるようなメールやSNS、録音といった客観的証拠がなく、当事者の言い分も食い違う場合には、最終的にはどちらの言い分が信用できるかが問題となります。

双方の言い分のどちらが信用できるかについては次の点が考慮されます

  • 供述が一貫しているか
  • 供述が具体的か
  • 供述に矛盾、不自然な点があるか
  • 虚偽の供述をする動機があるか

(参考裁判例)

兵庫セクシャル・ハラスメント(国立A病院)事件(神戸地判平成9年7月29日、労判726号100頁)

以下の点に照らし、被害者の供述を信用できるとし、加害者の供述を信用できないとした。

  1. (被害者)の供述する内容は、日時、場所、被害態様が変遷することなく一貫しており、供述する被害の態様も詳細かつ具体的で、不自然な点が見られないのに対し、(加害者)の供述は、全くやっていないと供述するのみである。
  2. (被害者)の供述内容が全くの虚偽であるとすると、(被害者)が(加害者)を陥れる目的を有していたとか、(被害者)が虚言癖のある人物であることが考えられるが、本件全証拠によっても、(被害者)がそのような目的を有していたとか、虚言癖のある人物であったことを窺わせる点を認めることはできない。
  3. (証拠)によれば、(加害者)は、勤務時間中に女性職員の乳房の大きさや体型のことや女性職員の配偶者との性交渉のことなどを話題にすることが度々あった(女性の乳房は大きいほうがよいとか、触ったら気持ちいいだろなとか、性交渉の体位を尋ねるなど。)ことが認められるところ、(加害者)は、そのような事実についても全く記憶にないとの供述を繰り返すのみであり、性的な事柄に関することになると記憶が欠落するという不自然な供述態度に終始している。

ハラスメント該当性

被害者の言い分どおりの事実が認められるとしても、当該加害者の行為が懲戒事由に該当しうるハラスメントといえなければ、懲戒処分はできません。

そのため、どのような行為がハラスメントに該当しうるかをあらかじめ確認しておかなければなりません。

パワハラ

職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素すべてをみたすものをいいます。

  1. 優越的な関係を背景とした
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
  3. 就業環境を害すること(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

代表的な言動の類型

  • 身体的な攻撃(暴行・傷害)
  • 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
  • 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
  • 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
  • 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
  • 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

セクハラ

職場におけるセクシャルハラスメントとは、以下のものをいいます。

  1. 職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、
  2. それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること(対価型セクハラ)、または、職場の環境が不快なものとなったため、労働者が就業する上で見過ごすことができない程度の支障が生じること(環境型セクハラ)

セクハラの受け止め方には個人差があるため、何をもってセクハラに該当するかの判断は判断が困難な場合があります。

加害者からは、しばしば被害者が嫌がっていなかったとの弁明がなされることがありますが、職場の人間関係を気にするなどして、やむをえずセクハラ行為時等に加害者に対して迎合的な言動をすることは十分あり得ることなので、慎重に評価する必要があります。

L館事件(最判平成27年2月26日、労判1109号5頁)

「原審は、(加害者)らが(従業員)から明白な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして、これらを(加害者)らに有利な事情としてしんしゃくするが、職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや、」「本件各行為の内容等に照らせば、仮に上記のような事情があったとしても、そのことをもって(加害者)らに有利にしんしゃくすることは相当ではないというべきである。」

処分に社会的相当性が認められるか

ハラスメントが認定できる場合でも、加害者に科す懲戒処分の内容が、加害者の行為に比して過剰な場合には社会的相当性が認められず、懲戒処分が無効になります。

適正な手続きを経ているか

懲戒処分は刑罰に類する制裁であるため、適正な手続が求められます。就業規則等で規定されている手続を経ないで行った懲戒処分は無効となります。

特に弁明の機会の付与は重要な手続であり、規定がなくても必要です。

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藤澤昌隆
藤澤昌隆
弁護士・中小企業診断士(リーダーズ法律事務所代表、愛知県弁護士会所属)

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