この記事では、
退職勧奨を予定しているがトラブルを避けたい
退職勧奨の際の注意点を知りたい
という人のために、退職勧奨の注意点を弁護士が基本からしっかり解説しています。
退職勧奨とは
退職勧奨とは、使用者が労働者に対して辞職や労働契約の合意解約の承諾を促すことをいいます。
退職勧奨は解雇を避けるために行われる
労働契約を終了させるための究極的な手段は解雇です。
しかし、解雇は法律上規制されており、容易には認められていません。そのため、使用者側は後に解雇の無効を争われないよう、解雇事由が認められる場合でも、より穏当な退職勧奨を先行して行うことがしばしばあります。
退職勧奨は、解雇より穏当な手段として解雇前に行われる
会社都合の退職勧奨は退職金が上乗せされることも
経営難等の会社都合の退職勧奨の場合、退職金の算定が会社都合となり退職金が上乗せされることがあります。
また、会社都合退職とされれば、雇用保険失業給付においても有利な扱いとなります。
労働者が退職勧奨に応じる義務はない
退職勧奨がなされた場合、労働者には退職勧奨に応じる義務はありません。
また、退職勧奨に応じなかったことを理由になされた不利益処分は無効になります。
退職勧奨に応じないことを理由とした解雇や不利益処分はできない
明確に拒否された後の退職勧奨の継続は違法になることも
使用者が退職勧奨をすること自体は、当然認められており、何ら違法ではありません。
もっとも、労働者から退職勧奨を拒否された後の退職勧奨の継続は違法になる場合があるので注意が必要です。
退職勧奨を継続できるかは明確な拒否の姿勢が示されたかどうかがポイント
使用者が労働者から退職勧奨を拒否されたとしても、ただちに退職勧奨を終了しなければならないわけではありません。一定程度の説得活動は引き続き可能です。
もっとも、明確な拒否の姿勢を示された場合は、その後に退職勧奨を継続すると不法行為となる可能性があります。
この点については、日本アイ・ビー・エム事件(平成23年12月28日)が基準を示しています。
日本アイ・ビー・エム事件によれば、労働者が以下の2つの条件をみたしたあと、使用者が退職勧奨を継続する場合は不法行為になる場合があるとしています。
- 退職勧奨のための面談には応じられないことをはっきりと明確に表明したこと
- 使用者に対してその旨確実に認識させたこと
日本アイ・ビー・エム事件(平成23年12月28日)
当該社員が被告に対して退職勧奨に応ずることによる有利不利の諸事情を比較検討した上で退職勧奨に応じない選択をしたこと、更なる説明ないし説得活動を受けたとしても退職勧奨に応じない意思は堅固であり、この方針に変更の余地のないこと、したがって、退職勧奨のための面談には応じられないことをはっきりと明確に表明し、かつ、被告(当該社員の上司)に対してその旨確実に認識させた段階で、初めて、被告によるそれ以降の退職勧奨のための説明ないし説得活動について、任意の退職意思を形成させるための手段として、社会通念上相当な範囲を逸脱した違法なものと評価されることがあり得る、というにとどまると解するのが相当である。
労働者が退職勧奨に応じない意思を明確に示した場合は、退職勧奨は継続できない
不当な退職勧奨は不法行為になる
退職勧奨にあたって、使用者が、労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり、名誉感情を害するような言動をしたりした場合は当該退職勧奨は不法行為となる場合があります。
違法な退職勧奨に対して慰謝料が認められた裁判例
慰謝料認容額 | 事案の概要 |
---|---|
330万円 | 退職に追い込むための嫌がらせや暴力行為が行われた事例(エールフランス事件、東京高判平成8年3月27日、労判706号69頁) |
90万円 | 退職勧奨につき30数回の面談や机をたたいたり大声を出して退職を迫った事例(全日本空輸(退職強要)事件、大阪高判平成13年3月14日、労判809号61頁) |
66万円 | 採用後間もない労働者の性格や感覚等を批判し、職場から排除しようとした行為を違法な退職勧奨とした事例(公益財団法人後藤報恩会ほか事件、名古屋高判平成30年9月13日、労判1202号138頁) |
20万円 | 退職勧奨にあたって懲戒解雇の可能性が示唆された事例(日本航空(雇止め)事件、東京高判平成24年11月29日、労判1074号88頁) |
10万円 | 繰り返し日付空白の退職届の作成・提出を強要した事例(東京地判平成30年11月30日) |
※表の慰謝料認容額には弁護士費用の損害が含まれる。
退職勧奨のトラブルを避けるために注意することまとめ
退職勧奨のトラブルを避けるために注意することをまとめます。
- 退職勧奨に応じることのメリット、会社に在籍し続ける場合のデメリットを真摯に説明する
- 懲戒や解雇を不用意に示唆しない
- 労働者の人格避難や侮辱的な言動をしない
- 退職勧奨をするときは録音をされていることを前提に話す