この記事では、従業員の秘密保持義務について弁護士が解説しています。
従業員の秘密保持義務
従業員の会社の営業秘密に関する秘密保持義務は、就業規則や入社時・退職時の誓約書、秘密保持契約の締結などにより行われていることが多いです。
秘密保持義務を負う情報の範囲を明確にするためにも、上記手続きをとるのが望ましいですが、仮にそれらがなかったとしても、在職中の従業員は労働契約上の付随義務として営業秘密について秘密保持義務を負います。
メリルリンチ・インベストメント・マネージャーズ事件(東京地判平成15年9月17日、労判858号57頁)
「従業員が企業の機密をみだりに開示すれば、企業の業務に支障が生ずることは明らかであるから、企業の従業員は、労働契約上の義務として、業務上知り得た企業の機密をみだりに開示しない義務を負担していると解するのが相当である。このことは、本件就業規則の秘密保持条項が原告に効力を有するか否かに関わらないというべきである。」
従業員が秘密保持義務に違反した場合
従業員が秘密保持義務に違反した場合、程度に応じて懲戒処分、解雇、損害賠償請求、差止請求の対象となりえます。
秘密保持義務違反を理由とする従業員の解雇を有効とした事例
東京地判昭和43年7月16日
「債権者が債務者から営業上の秘密として指定されたEMO61なる機種の製作に要する工数を漏らしたことは、信義則上労働者に要請される秘密保持の義務に違反し、しかも債務者はこのため安値受注を余儀なくされたのであるから、その情状はきわめて重大である」とし、その他7項目の解雇事由の疎明があるとして、労働者からの地位保全の仮処分の申立てを却下した事例。
秘密保持義務違反を理由とする懲戒解雇を有効とした事例
古河鉱業足尾製作所事件(東京高判昭和55年2月18日、労働判例百選8版27事件)
会社の経営再建のための計画書を漏えいした従業員らに対する懲戒解雇を有効とした事例。
退職後の秘密保持義務
退職後も個別の合意や就業規則において退職後も秘密保持義務を負うことが規定されている場合、従業員は引き続き秘密保持義務を負います。
個別の合意や就業規則に規定されていない場合は、裁判所の判断が分かれています。そのため、就業規則や個別の合意(誓約書、秘密保持契約書等)で、退職後も従業員が秘密保持義務を負うことも確認しておくことが重要です。
退職後も引き続き秘密保持義務を負うとした事例
大阪高判平成6年12月26日
退職後も秘密保持義務を負う旨の「定めや特約がない場合であっても、退職、退任による契約関係の終了とともに、営業秘密保持の義務もまったくなくなるとするのは相当でなく、退職、退任による契約関係の終了後も、信義則上、一定の範囲ではその在職中に知り得た会社の営業秘密をみだりに漏洩してはならない義務をなお引き続き負うものと解するのが相当である」とした事例
退職者に秘密保持義務を負わすには就業規則、契約等の明確な根拠が必要であるとした事例
レガシィ事件(東京地判平成27年3月27日、平成27年重判労働法2事件)
「労働契約の終了とともに同契約上の義務も終了するのが原則であり、」「信義則に基づく在職中の守秘義務は、原則どおり労働契約の終了とともに消滅すると解されるから、退職者の守秘義務の根拠としては、労働契約上の明確な根拠(秘密管理規定ないし守秘契約)が必要であるというべきである」として、退職後の秘密保持に関する就業規則等に規定がない本件では、従業員は就業規則と同内容の秘密保持義務を負わないとした事例(ただし、秘密情報を在職中に持ち出していることから、労働契約上の秘密保持義務の適用を受けるとしている。)