労働条件

定年後の再雇用後の労働条件の引き下げの適法性

定年後再雇用

この記事では定年後の再雇用後の労働条件の引き下げの適法性について弁護士が解説をしています。

継続雇用制度とは

継続雇用制度とは現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度です。

高年齢者雇用安定法(高年法)9条は65歳未満の定年の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の措置のいずれかを講じなければならないとされています。

  1. 当該定年の引上げ
  2. 継続雇用制度の導入
  3. 当該定年の定めの廃止

そのため、多くの企業では60歳定年としつつ、2の継続雇用制度を導入しています。

再雇用後の労働条件は労使の自治が原則

継続雇用制度における労働条件については、法は特に規定をおいていません。そのため、再雇用後の労働条件については、労使の自治にゆだねられます。

したがって、再雇用後の労働条件の提示については、原則として会社側に合理的な裁量が認められ、必ずしも従前の労働条件を維持しなければならないものではありません。

大幅な労働条件の引き下げには不法行為が成立することも

上記のとおり、再雇用後の労働条件の提示については会社側に合理的な裁量が認められるのが原則ですが、大幅な労働条件の引き下げに対しては、会社に不法行為が成立する場合があります。

九州惣菜事件(福岡高判平成29年9月7日、労判1167号49頁)では、月収ベースの賃金の約75パーセント減少につながるような短時間労働者への転換の提案について、これを正当化する合理的な理由があるとは認められないとして、会社側に100万円の慰謝料の賠償義務があるとされています。

パートタイム有期雇用労働法違反にも注意が必要

継続雇用後の労働者は通常1年間の有期契約を更新していく方式が採られているので、継続雇用後の労働者は有期契約の労働者になります。

そのため、労働条件の引き下げの問題は、有期労働者と正社員との不合理な待遇差や差別的取り扱いを禁止する「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム有期雇用労働法)8条、9条との関係で争われる可能性があります。*1

パートタイム有期雇用労働法8条

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

パートタイム有期雇用労働法9条

事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

*1:従来は旧労働契約20条との関係で争われてきましたが、2020年4月1日以降パートタイム有期雇用労働法が施行され、旧労働契約法20条はパートタイム有期雇用労働法8条に統合されました。

ABOUT ME
藤澤昌隆
藤澤昌隆
弁護士・中小企業診断士(リーダーズ法律事務所代表、愛知県弁護士会所属)

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です