この記事では、セクハラ、マタハラ、パワハラ等のハラスメント行為に対する民事上の責任について弁護士が解説しています。
ハラスメントをした人の責任
損害賠償責任
ハラスメントをした人については、民法709条の不法行為が成立し、被害者に対する損害賠償責任を負う可能性があります。
賠償責任を負う損害の内容としては以下のものが考えられます。
- 被害者の精神的苦痛に対する慰謝料
- 治療費、通院交通費等
- 休業損害、後遺障害逸失利益
- 弁護士費用
会社からの懲戒
ハラスメント行為は懲戒の対象になりえます。そのため、会社から懲戒処分を受ける可能性があります。
会社の責任
業務中にハラスメントをした人に不法行為が成立する場合、会社はその使用者責任を負い、被害者の従業員に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
また、ハラスメントが組織的と判断される場合は、会社自身が直接民法709条の不法行為責任を負う可能性もあります。
その他、職場環境配慮義務違反として、被害者の従業員との労働契約上の債務不履行責任が認められることもあります。
損害の内容
ハラスメントにより損害賠償請求の対象となるのは、慰謝料、治療費、逸失利益、弁護士費用等です。
慰謝料
ハラスメントが認定された場合には慰謝料が認められることが多いですが、その額は、パワハラ、セクハラともに50万円以下にとどまるケースが多いです。
慰謝料の額に影響する要素としては、ハラスメントの悪質性・継続性、被害者への精神疾患等の結果の発生、休職・退職等の結果、後遺障害の発生などがあります。
ハラスメントの慰謝料についてはあまり高額の慰謝料が認められていないのが実態ですが、事案によっては300万円以上になったり、被害者が自殺したような場合でハラスメントと自殺の因果関係が肯定された場合には慰謝料額が1000万円を超えることもあります。
ハラスメントの慰謝料事例をまとめた書籍としては「慰謝料算定の実務 第2版」があります。
治療費
ハラスメントにより傷害の結果や精神疾患などが生じ、通院が必要になった場合は治療費や通院交通費などが損害となりえます。
逸失利益
ハラスメントにより、被害者が休職や退職等を余儀なくされり、後遺障害を負った場合には、休業損害、後遺障害の逸失利益が損害となりえます。
ただし、因果関係の立証は容易ではなく、慰謝料の算定において考慮されるにとどまったり*1、損害として考慮されないこともあります。
弁護士費用
ハラスメントに対する損害賠償が認められる場合は、他の不法行為に基づく損害賠償請求同様、損害額の10%の弁護士費用の損害が認められています。
例えば、慰謝料が100万円認められる場合は、その10%の10万円が弁護士費用の損害として認められることになります。
*1:仙台地判平成30年4月24日は「原告が主張する休業損害が全て被告による不法行為によって発生したと認めることはできず、また、被告による不法行為と相当因果関係のある休業損害額を算定するのも困難であるから、原告が被告の不法行為によってうつ病を発症し、その結果、平成26年12月27日より後から病気休暇を取得し、平成27年6月25日から休職したことは、後記慰謝料の算定事由として考慮することとする。」としている。