ハラスメント

従業員に理不尽なクレーマーに対して謝罪させるとパワハラとなることがあります

クレーマー、パワハラ、謝罪強要

顧客や第三者等からの理不尽なクレームに多くの企業が悩まされています。

モンスタークレーマーの中には、理由のない謝罪を執拗に求めてくる者がいます。

モンスタークレーマーに対しては、場を収めるために安易に謝罪することはしばしば見受けられます。

しかし、場を収めるためとはいえ、非のない従業員に上司が謝罪を強要するとパワハラになるおそれがあるので注意しましょう。

この記事では、理不尽なモンスターペアレンツの謝罪要求に対して、謝罪を強要された小学校の先生の実際のパワハラ裁判についてご紹介します。

謝罪強要で慰謝料が認容された甲府市・山梨県(市立小学校教諭)事件

それでは早速、100万円の慰謝料が認容された甲府市・山梨県(市立小学校教諭)事件を紹介していきます。

この事件では、ほかにも複数の争点があるのですが、今回は謝罪強要のところについてのみ取り上げます。

関係者

この事件の関係者です。

謝罪強要、パワハラ、クレーマー

謝罪要求事案の概要

平成24年8月26日、児童の敷地でX先生が児童宅で飼われていた犬に噛まれる事故が発生。X先生は加療2週間の怪我をしました(犬咬み事件)。

うへー。痛そう。。

平成24年8月27日、X先生は受診したクリニックの医師から賠償保険やペット保険の加入の有無を聞いてみたらどうかとの助言を受け、X先生は児童の母に「賠償保険という保険に入っていたら、使わせていただきたい」などと話しましたが、入っていないとのことでした。

X先生は、児童の母方の祖父が旅行会社を経営しており保険に詳しいと思ったため、今後同じような事故が起きた場合の備えとして保険について相談してはどうかということを児童の母に話しました。

民法上、動物が他人に怪我をさせた場合は、飼い主が賠償責任を負います。

平成24年8月28日、児童の保護者がX先生宅に謝罪のため訪問、賠償を申し出るもX先生は辞退。

X先生の妻は父母の帰り際に「主人は学校教員でもありますし、けがをしたからといって普通の人のように怒ったり何とかというようなことじゃなくて、教育的なことの中で、言いたいことも言えないんですけども、そういうことはご理解いただきたい」というようなことを言ったと思うと後に証言。

X先生は賠償は辞退したんですね。奥さん的には賠償してほしそうな発言ですが。

平成24年8月29日朝、児童の父よりY校長に電話、「X先生がまだ補償を求めている。」「児童の母に対する電話での話が脅迫めいている」「Y校長を交えX先生と話がしたい。」とクレーム

これを受け、Y校長が、X先生に犬噛み事故の報告書の提出を指示。X先生が提出した報告書を読んだ校長が、X先生が「賠償」という言葉を使ったこと、児童の祖父を引き合いに出し保険の話をしたことを非難。

なんで非難されるのっ!?

平成24年8月29日午後5時30分、児童の父と祖父、Y校長、X先生で面談。

児童の父と祖父が、28日の謝罪の際に、X先生の妻から「そうは言っても補償はありますよね」などと言われ、その口調や態度等から脅迫されていると感じ、児童の母が、怖くて外に出られず床に伏せっているなどと主張。

児童の祖父が「地域の人に教師が損害賠償を求めるとは何事か」などと言ってX先生を非難。「強い言葉を娘に言ったことを謝ってほしい」などとして謝罪要求し、児童の父も同調。

逆ギレっ!?

Y校長は、X先生に児童の父と祖父に謝罪するよう求め、X先生は、ソファから腰を降ろし、床に膝を着き頭を下げて(頭を床に着けたというものではない。)、謝罪しました。

Y校長は、児童の父と祖父が帰った後、X先生に対し「会ってもらえなくとも、明日、朝行って謝ってこい。」と翌日に児童宅を訪問し、児童の母に謝罪するよう指示。

以上が犬咬み事件に関する謝罪要求騒動の事案の概要です。その後、X先生はうつ病と診断され、長期間休職することになりました。

裁判所は校長のパワハラを認定し100万円の慰謝料を認容

Y校長の謝罪強要に対し、裁判所はパワハラを認定し、その他の校長のパワハラを含め慰謝料100万円を認容する判決を下しました(慰謝料含む損害の総額としては295万9251円)。

話を収めるための謝罪は安易な行動と一蹴

Y校長は県の教育委員会に提出した書面に、「客観的に見た場合、話を収めるには、この方法が良いと判断しました。」と述べていました。

しかし、裁判所はこれにつき児童の父と祖父の勢いに押された安易な行動と一蹴しています。

【判旨】

「客観的にみれば、原告は犬咬み事故の被害者であるにもかかわらず、加害者側である本件児童の父と祖父が原告に怒りを向けて謝罪を求めているのであり、原告には謝罪すべき理由がないのであるから、原告が謝罪することに納得できないことは当然であり、Y校長は、本件児童の父と祖父の理不尽な要求に対し、事実関係を冷静に判断して的確に対応することなく、その勢いに押され、専らその場を穏便に収めるために安易に行動したというほかない。」

話しを収めるために安易に謝罪をさせてはいけない

上記でみたように甲府市・山梨県(市立小学校教諭)事件では、理不尽な謝罪要求に対して、教諭に謝罪をさせた行為が安易な行動と一蹴されています。

そのため、理不尽なクレームに対して、話を収めるという理由で、ひとまず従業員に謝罪をさせる行為は後にパワハラとして問題視されるリスクが高いです。

理不尽なクレームを受けた従業員は、ただでさえ精神的な不安や苦痛が溜まっているのに、上司や経営者からも守ってもらえず、理不尽な要求をされてしまえば、そのストレスが精神疾患に発展したり、会社への不満が爆発することがありえます。

会社としては、安易に従業員に謝罪させる方向での解決は控えるべきです。

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藤澤昌隆
藤澤昌隆
弁護士・中小企業診断士(リーダーズ法律事務所代表、愛知県弁護士会所属)

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