この記事では、
- 会社が使用者責任を負う場合について知りたい
- 会社が使用者責任を免責される条件について知りたい
- 会社が使用者責任を争う場合の争い方について知りたい
- 会社が被害弁償した際の従業員への求償について知りたい
という人のために、使用者責任について弁護士が基本からしっかり解説しています。
使用者責任とは被用者の不法行為に関する使用者の責任
ある事業について他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。これを使用者責任といいます(民法715条1項)。
例えば、建設現場で工事中に従業員が過失で通行人に怪我をさせてしまった場合、会社は被害者に使用者責任として損害賠償をしなければなりません。
使用者責任の要件
使用者が責任を負う場合の要件は次のとおりです。
- 被用者が不法行為責任を負うこと
- 不法行為のときに被用者と使用者に使用関係があること
- 不法行為が使用者の事業の執行につき行われたものであること
最判昭和39年2月4日
退社後、私用に使うことが禁止されていた社用車で帰宅する途中交通事故を起こした事例。民法715条の「事業の執行につき」の要件をみたすとして使用者責任が肯定された。
被用者の権限外の行為でも「事業の執行につき」といえる場合がある
被用者の不法行為が「事業の執行につき」といえるには、当該行為が使用者の事業の範囲内の行為でなければなりません。
また、被用者の不法行為が被用者の職務の範囲内でもなければなりません。被用者の職務の範囲内といえるかについては、判例は外形標準説という立場をとっています。
外形標準説からは、被用者の権限外の行為であっても、行為の外形から観察して、被用者の職務の範囲内の行為と見られる場合には「事業の執行につき」といえます。
- 「事業の執行につき」といえるには、被用者の不法行為が使用者の事業の範囲内の行為でなければならない(個人的な行為はNG)
- 権限外の行為であっても、行為の外形から観察して、被用者の職務の範囲内の行為と見られる場合には「事業の執行につき」といえる
「事業の執行につき」の要件について、被用者の職務の執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものと見られる場合をも包含するものとする立場(最判昭和37年11月8日他)
使用者責任の根拠は危険責任と報償責任
危険責任の原理 | 使用者は被用者を使用することで危険を発生させたり、拡大している以上、それにつき責任を負うというもの |
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報償責任の原理 | 使用者は被用者を使用することで、利益を上げている以上、その危険も負担すべきであるというもの |
会社の使用者責任が問題となるケース
会社の使用者責任が問題となるケースとしては、次のようなものが挙げられます。
- 業務中の従業員同士のセクハラ、パワハラ等のハラスメント
- 社用車での従業員の交通事故
- 従業員の作業ミスなどで取引先に損害を与えた場合
業務中の従業員の行為に不法行為が成立する場合は、使用者責任は比較的広く成立し、その責任から逃れることは容易ではありません。
使用者の免責の立証が認められることは皆無
民法715条1項ただし書は、使用者が免責される要件を以下のとおり定めています。
- 使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき
- または、相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき
免責立証はまず認められず、使用者責任は実質無過失責任となってしまっている
使用者が使用者責任を争うには使用者責任の要件自体を争う
715条ただし書での免責立証が認められることは皆無です。
そのため、会社が使用者責任を争うためには免責を立証するのではなく、使用者責任の要件そのものを争う必要があります。具体的には以下の点を争います。
- 不法行為の成立、損害の発生自体を争う
- 被用者との使用関係の有無を争う
- 不法行為が事業の執行についてなされたものでないと争う
- 過失相殺の主張をする
使用者責任を争う場合は免責立証ではなく、使用者責任の要件自体を争う
使用者から労働者への求償は信義則により制限されうる
被害者に対して損害を賠償した使用者は、被用者に求償することができます(民法715条3項)。
求償とは、被害者に支払ったお金を被用者に請求することをいいます。
もっとも、判例上、使用者の求償権は信義則上制限されています。そのため、常に全額を求償できるわけではありません。
茨城石炭商事事件(最判昭和51年7月8日、判タ340号157頁)
「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」
- 使用者が被害者に賠償した場合は被用者への求償が可能
- 損害の公平な分担の見地から求償権は信義則上一定限度に制限されうる