この記事では、
- 従業員に配転命令を拒否されている、拒否されそう
- 配転命令を拒否した従業員を解雇できるか知りたい
- 配転命令の法的根拠を知りたい
- 配転命令を拒否できるか知りたい
という人のために、配転命令(転勤命令)について弁護士が基本からしっかり解説しています。
配転命令権の法的根拠
配転命令権の法的根拠について解説していきます。
配転命令権は広く認められる
配転命令権は使用者に広く認められています。
法的な根拠としては、就業規則などに、配転命令を命じることができる旨の規定が置かれていることが多いでしょう。
精電舍電子工業事件(東京地判平成18年7月14日、労判922号34頁)
「就業規則上配転に関する規定がないとしても、そのことから、直ちに被告の配転命令権がないとすることはできず、労働契約締結に至る経緯、被告における人事異動の実情等の諸般の事情を考慮して決すべきである。」
職種限定や勤務地の限定がある場合は同意が必要
使用者に配転命令権が認められる場合でも、個別の従業員と職種や勤務地を限定する合意がなされている場合には、従業員の同意がない限り、合意の範囲内でしか配転命令をすることはできません。
- 職種限定、勤務地限定の合意がある場合は従業員の同意が必要
- 職種限定、勤務地限定の合意の有無は裁判で争われやすい
- 職種限定、勤務地限定の合意がある場合でも、やむを得ない事情がある場合には配転命令が認められることも
配転命令権を濫用した配転命令は無効
使用者に配転命令権が認められても、配転命令が権利の濫用になる場合には、当該配転命令は無効になります。
東亜ペイント事件では、配転が権利の濫用となる場合を次のように示しています。
東亜ペイント事件(最判昭和61年7月14日、労判477号6頁)
- 当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合
- 又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき
- 若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
等特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。
東亜ペイント事件(最判昭和61年7月14日、労判477号6頁)
「業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもつては容易に替え難いといつた高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」
配転命令を拒否した従業員の解雇は可能?
配転命令を拒否した従業員の解雇が可能か解説していきます。
配転命令拒否は業務命令違反
適法な配転命令に従業員が従わない場合は、業務命令に対する違反になるので懲戒事由や解雇事由になります。
配転命令拒否に対しては原則解雇が可能、ただし解雇権の濫用となる場合も
適法な配転命令を拒否し、配転先での就労を拒否した従業員に対する解雇は原則有効になります。
もっとも、諸事情を勘案して解雇処分が重すぎる場合には解雇権濫用法理により解雇が無効となることがあります。
特に懲戒解雇は労働者にとって重い処分で手続等も厳格に行う必要があるので、無効になるリスクを十分考慮する必要があります。
メレスグリオ事件(東京高判平成12年11月29日、労判799号17頁)
「配転命令自体は権利濫用と評されるものでない場合であっても、懲戒解雇に至るまでの経緯によっては、配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇は、なお。権利濫用としてその効力を否定されうると解すべきである。」
「被控訴人(使用者)は,控訴人(労働者)に対し、職務内容に変更を生じないことを説明したにとどまり、本件配転後の通勤所要時間、経路等、控訴人において本件配転に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供しておらず、必要な手順を尽くしていないと評することができる。このように、生じる利害得失について控訴人が判断するのに必要な情報を提供することなくしてされた本件配転命令に従わなかったことを理由とする懲戒解雇は、性急に過ぎ、生活の糧を職場に依存しながらも、職場を離れればそれぞれ尊重されるべき私的な生活を営む労働者が配転により受ける影響等に対する配慮を著しく欠くもので、権利の濫用として無効と評価すべきである。」
- 配転命令を拒否した従業員に対する解雇は原則可能
- 解雇が重すぎる場合や説明や手続が不十分な場合は解雇が無効になることも
- 懲戒解雇をする場合は要注意
違法な配転命令は損害賠償の対象に
違法な配転命令に対しては、不法行為又は債務不履行責任に基づく損害賠償請求(慰謝料)の対象になることがあります。
慰謝料の算定には、使用者側に不当な動機が認めらられるか、労働者が被った不利益などの事情が考慮されます。
- 違法な配転命令は慰謝料請求の対象となりうる
- 全ての事案で慰謝料が認められるわけではない
- 使用者の悪質性が認められるものや、労働者の不利益が大きい場合は100万円程度認められることも