派遣法

労使協定方式で退職金制度の方法をとる場合の留意点ー派遣法改正

労使協定方式、退職金、注意点

この記事では、派遣労働者の待遇について、労使協定方式を採用する場合における退職金制度の留意点について、弁護士が解説しています。

派遣労働者の退職金の3つの比較方法

派遣労働者の待遇について労使協定方式を採用する場合、退職金についても一般賃金のうちの退職金(一般退職金)と比較が必要で、派遣労働者に支給される退職金は一般退職金と同等以上でなければなりません。

派遣労働者の退職金を一般退職金と比較する方法は、退職金の支給方法によって異なります。退職金の支給方法は以下の3つの方法があります。

  1. 退職金制度に基づいて退職金を支給する方法
  2. 退職金の費用を毎月の賃金等で前払いする方法
  3. 中小企業退職金共済制度や確定拠出年金等に加入する方法

このうち2、3は比較的シンプルな比較ができるので、比較においてはそれほど大きな問題は生じません。

比較する際、問題が生じやすいのが、1の退職金制度に基づいて退職金を支給する方法をとる場合です。

一般退職金と派遣労働者の退職金制度の比較の手順

一般退職金との比較の手順はおおざっぱに次のおとりです。

  1. 局長通達別添4の各統計調査から、比較に使用する統計結果を選択
  2. 選択した統計結果をまとめ、派遣労働者に適用される退職金制度と比較

1.局長通達別添4の各統計調査から、比較に使用する統計結果を選択

まず、比較に使用する統計結果を選択することになりますが、最も使いやすいのは「平成30年中小企業の賃金・退職金事情(東京都)」と考えられます。

以下の計算では、とりあえずこちらの統計を使用します。こちらの統計では、支給月数について大学卒、高専・短大卒、高校卒と3つのパターンがありますが、以下の計算では大学卒を使用します。

2.選択した統計結果をまとめ、派遣労働者に適用される退職金制度と比較

通常退職金制度は勤続年数別に支給月数を定める制度がとられていることが多いですが、それと一般退職金の水準を計算する場合は次のとおりとなります。

①退職金の受給に必要な年数

上記統計における最も回答割合が高い3年(会社都合、自己都合)

②退職時の勤続年数別の支給月数

上記統計における勤続年数別の支給月数に退職金制度の導入割合(71.3%)を乗じる

以上をまとめた場合、一般退職金の水準は次の表のとおりとなります。

自己都合 勤続年数 3年 5年 10年 15年
支給月数 0.8 1.4 3.1 5.3
20年 25年 30年 33年
7.6 10.6 13.3 15.3
会社都合 勤続年数 3年 5年 10年 15年
支給月数 1.2 1.9 4.1 6.5
20年 25年 30年 33年
8.9 11.8 14.5 16.6

支給月数を比較する場合の注意点

支給月数を比較する場合、算定基礎となる給与が所定内賃金でない場合は、所定内賃金に置き換える必要があります。

ここでいう所定内賃金は以下を意味します。

所定内賃金は、所定労働時間に対し支払われる賃金で、基本給、業績給、勤務手当、奨励手当(精皆勤手当)、生活手当、その他の諸手当等をいい、通勤手当、所定外賃金(時間外手当、深夜手当、休日出勤手当等)及び賞与は除かれる。

※「労使協定方式に関するQ&A(第2集)」問4-4

派遣労働者に適用される退職金制度の算定基礎が例えば基本給のみで諸手当等が含まれない場合は、所定内賃金への置き換えが必要になります。注意すべきはこの場合、置き換え後の自社の退職金制度の支給月数は減ることになることです。

例えば、勤続年数10年、基本給25万円、諸手当2万円、自己都合退職する場合は次の式のとおり、基本給での支給月数は3.348月以上でなければなりません。

一般退職金の支給月数3.1月×所定内賃金27万円÷基本給25万円=3.348月

この比較の際、難点となるのが、この比較にもちいる基本給、所定内賃金がはっきりしないことです。ここは下記のQ&Aなども参照しつつ労使で協議ということになってしまいます。

問4-3 局長通達第2の3(1)「退職手当制度で比較する場合」で支払うことを選択した場合、一般退職金と協定対象派遣労働者の退職金を比較する際は、モデル退職金やモデルの所定内賃金で比べればよいか。

退職金テーブル・モデル退職金やモデル所定内賃金で算出した支給月数と、一般退職金の支給月数を比較し、同等以上であればよい。

問4-5 令和元年8月19日付けのQ&A問4-3では、一般退職金と比較する場合、協定対象派遣労働者の支給月数は協定対象派遣労働者の退職時の「所定内賃金」額を用いるとあるが、派遣元事業主の退職手当制度の算定基礎となる賃金と一致していない(基本給を算定基礎としている場合など)こともある。その際はどのように一般退職金の支給月数と比較すればよいか。

各派遣元事業主の退職手当制度の算定基礎については、必ずしも所定内賃金にする必要はないが、一般退職金の支給月数と比較する際は、所定内賃金額に置き換えた上で、比較していただくことが必要である。
(例)
・一般退職金:3年勤続⇒2.5ヵ月分支給
・事業主の退職手当制度:3年勤続⇒基本給(モデルは25万円)×3.0ヵ月=75万円支給

⇒ この場合「基本給×3.0ヵ月」の合計額(75万円)を所定内賃金額(モデルは28万円)で割り、退職手当制度の支給月数を算出(75万円÷28万円≒2.7ヵ月分)し、そのうえで一般退職金(2.5ヵ月)と比較。

※「労使協定方式に関するQ&A(第2集)」

比較ができたら退職金規程の改定の検討

一般退職金との比較ができたら、労使協定で引用することになる派遣労働者の退職金規程の改定を検討します。

一般退職金の水準を上回っていれば、特に改定は不要ですが、下回っている場合は、労使協定協式適用の要件(法30条の4第1項第2号イ)をみたさなくなるので、改定が必要になります。

なお、現行の退職金規程の水準を一般退職金の水準に合わせて下げる場合は、労働条件の不利益変更になるので注意が必要です。

局長通達で示された支給月数が上がった場合は見直しが必要

派遣労働者に適用される退職金制度が一般退職金の水準を上回っている場合でも、次の統計結果により支給月数が上がることがありえます。

この場合は、退職金制度を速やかに見直す必要があります。*1

*1:「労使協定方式に関するQ&A(第2集)」問4-9

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藤澤昌隆
藤澤昌隆
弁護士・中小企業診断士(リーダーズ法律事務所代表、愛知県弁護士会所属)

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